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小説家としての信念が確認出来る貴重な作品

『職業としての小説家』村上春樹著 書評

 

『職業としての小説家』村上春樹著

 

サイト管理人の評価

 

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村上春樹さんがご自身の創作について語った自伝的エッセイ。村上ファンにとってはたまらない内容といえるでしょう。

 

前半の6章は雑誌に掲載されたもの。後半の5章は書下ろしとなっています。

 

「文学賞について」「どんな人物を登場させようか?」「誰のために書くのか?」など興味深いトピックスを並べています。

 

春樹さんの本はさんざん読んできたので既に知っている内容もありましたが、一方で初めて知る部分も少なくありませんでした。

 

一読して特に印象に残ったのは「オリジナリティーについて」という章でした。

 

なぜなら最近、クリエイティブディレクター佐野研二郎さんの東京オリンピックエンブレム盗用問題が起こったばかりであったので、とてもタイムリーな関心事であったからです。

 

春樹さんは本書で「オリジナルである」と呼ぶためには3つの条件が必要だと考えていると語ります。内容をはしょって大まかに述べると、

 

・他の表現者とは明らかに異なる、独自のスタイルを有している
・そのスタイルを、自らの力でヴァージョン・アップできなくてはならない
・その独自のスタイルは時間の経過とともにスタンダード化し、価値判断基準の一部として取り込まれていかなくてはならない

 

とのことでした。

 

そして、その事例として、登場してきたばかりのビートルズの衝撃を挙げています。

 

これを読み、なるほどなと納得してしまいました。

 

それでいうと、確かに初めて春樹さんの文章を読んだ時はとても衝撃的であり、今までに見たことのない感覚を受けました。

 

村上作品はこの3つの条件を有していると思います。同様のことは、作家の椎名誠、お笑いではダウンタウンにもあてはまる気がします。

 

これを読むと佐野研二郎さんの作品の議論とはそもそもレベルが違うのだなという感じです。

 

根本的な覚悟が異なります。

 

また、「海外に出ていく。新しいフロンティア」という章は初めて知ることが多く楽しめました。

 

40代になってグローバル市場で無名の状態からまた営業活動を行うという状況は微笑ましくもあり、国内と同様に徐々に支持基盤が増えていったという過程には興味がわきました。

 

村上春樹作品は国や言語を超越した普遍的な魅力を備えているといえるのではないでしょうか。

 

春樹さんは著書の中で、「小説家として1度や2度良い作品を書くのは簡単だが、それを何十年も続けるのはとてもたいへん」と述べています。

 

しかし、このことはけっこうどの業界でも当てはまることなのかもしれません。むしろ、どんな世界でも忍耐力というのは大切なことなんだなと感じました。

 

「世界的に著名な作家の仕事術」といった趣があり、とても参考になりました。

 

こんな人におススメ!

・村上春樹さんファンの人
・小説家などのクリエイター、あるいはクリエイター志望の人
・世界で大きな功績を残している人物の考え方を知りたい人

 

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読書日:2015年9月

 

『職業としての小説家』村上春樹著

 

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