大局的、客観的に世界の趨勢を確認出来る
『リー・クアンユー、世界を語る』グラハム・アリソン ロバート・D・ブラックウィル アリ・ウィン著 書評
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「シンガポール建国の父」と称されるリー・クアンユー。
腐敗していた貧しい都市国家を現代国家へと変貌させ、人口540万人の小国ながら、現在、国民の所得は大半のアメリカ人をしのぐまでになっています。
オバマ大統領や習近平国家主席を始め、数多くの世界の指導者たちが師と仰ぐほどの人物です。
今年3月にお亡くなりになった際、大々的に報道され、リー・クアンユーにより深く関心を持つようになりました。
本書は2013年10月に刊行され、結果的に遺言ともいえる価値ある一冊になっています。
本書はリー・クアンユーがこれから起こるであろう事象についてグローバルな視点で語る内容になっており、アメリカ、中国、インド、米中関係、イスラム原理主義、民主主義などをトピックスに取り上げています。
世界中の指導者から尊敬されている稀有な人物の見識は島国傾向のある日本人の認識とは異なる部分も多々あり、様々な示唆を与えてくれます。
中でも多くのページがさかれているのは中国の台頭についてです。
中国の指導者は本気で、アメリカに代わり世界でナンバーワンになろうとしている。
そして、順調に行けば20年以内に世界第一位の経済大国になると述べています。
中国は4000年の歴史の間に「権力分立」になったことはなく、自由民主主義になることはないだろうとも語り、指導者は長期的展望を建て、次の22世紀を確実に中国のものとするために、21世紀はアメリカと覇を分け合うという考え方もあるとのこと。
私たち日本人からすると「民主主義は良いもの」という認識があるのですが、そこにはやはり弱点もあることを本書で知ることになります。
それは選挙に勝つ必要から重要な課題を先送りにしたり、移ろいやすい民意であらぬ方向に政策が行ってしまうリスクがあるということ。
その点、一党支配の中国共産党は選挙を気にすることなく、長期スパンで着実に政策をすすめられるという利点があります。
そもそもシンガポールの復興も、リー・クアンユーの独裁政治がなければなしえることはなかったでしょう。
本書では日本についても言及しています。
それは、今後20年ほどで起こりうる問題の1つとして、日本の不況が起こり、アジア太平洋全域に間接的に影響を及ぼすであろうと挙げられています。
その原因は社会の高齢化により、景気の低迷から抜け出せなくなる。
そして単一民族社会を維持したいがゆえに、移民を受け入れようとしないという点です。
こうしてみるとこれから日本は急速に人口が減り続けることになり、当然経済規模も縮小してきます。
一方、多少の波はあるものの中国の台頭は集中した権力組織の元でこれからもジワジワと続くことになるでしょう。
つまり、このままだとジリ貧になるリスクが日本にはつきまとうことになるわけです。
積極的に移民を取り入れ成長を遂げたアメリカやシンガポールの事例を考えると、日本も今が転換期なのかもしれません。
ルールや条件を明確にしながら、移民を受け入れる判断が必要な時期に来ているのではないかとも感じます。
そして、それを実現するには大胆な政策を実行出来るリーダーシップを発揮できる政治家が誕生しなければ相当難しいでしょう。
本書を読むと、日本は完全に内向き傾向にあり、それは今の日本が暮らしやす過ぎるという仕方のない点もあるのですが、それゆえにこのまま少しずつ衰退に向かってしまうのではないかという危惧があります。
日本国民一人ひとりがこの国についてこれからどうすべきか真剣に考える時期に来ているといえます。
こんな人におススメ!
・大局的な見地から世界の趨勢を把握したい人
・世界の要人が師と仰ぐリー・クアンユーの哲学を学びたい人
・これからの日本について考えるヒントを得たい人
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読書日:2015年10月
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