トップページ > 【評価順】旅・海外体験の本> 【読書感想】『ニューヨーク竹寿司物語』松本 紘宇
70年代〜90年代のアメリカの食文化の遍歴が理解できる
『ニューヨーク竹寿司物語』松本 紘宇著 書評
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著者の松本紘宇さんは1975年、ニューヨークで最初の寿司専門店を開いた方。
勤務していたサッポロビールを退社後、1969年にニューヨークに移住。
最初は魚卸商を営んでいたのですが、「すし屋をやってみよう」との思いが募り、実現させました。
本書はそんな松本さんの寿司店経営の回顧録、そして、70年代〜90年代(本書は1995年刊行)のアメリカの食文化の変化がよくわかる内容となっています。
この本の良さは、ニューヨークで初めて寿司専門店を開く流れが疑似体験出来ることです。
そして、そこにはアメリカならではの商法や商流が存在していることがわかります。
例えば、リカーライセンス(酒類販売許可証)の存在。
アメリカでは、レストランは免許がなければ酒を売ることが出来ないそうで、アルコール類は利益率が高いだけに飲食店経営でのお酒の導入は死活問題なのだそうです。
そして、ユニークなのは、「店舗の200フィート以内に教会がある場合は、そのお店でお酒を売ってはいけない」という法律があること。
このアメリカの禁酒法は史上最悪の法律ともいわれ、「敬虔なるクリスチャンやいたいけな学童に、酔っ払いの醜い姿を見せるべきではない」という主旨から来たものなのだそうです。
松本さんは事前にこのことを知って、店舗を構えたものの、普通のビルだと思っていた目の前の建物が実は教会だったということが発覚し、苦い体験をすることになります。
また、1975年4月1日にオープンした当初はお客さんが全然来ず、閑古鳥が鳴く状態だったそうですが、あることがきっかけで急にお客さんが殺到することになりました。
それはオープン2か月後、『ニューヨーク・マガジン』に批評が掲載され、その評価を見た人が来るようになったのです。
『ニューヨーク・マガジン』は一般市民向けの雑誌で、レストラン情報に目を通している人が多いとのことで、この当時は雑誌の影響力が大きかったことが伺えます。
以降は『ニューヨーク・マガジン』の記事のお蔭で経営も安定し、多店舗展開をしていくことになります。
松本さんは本書でアメリカの食文化の遍歴も詳しく書かれています。
そして、その中で「健康志向」がアメリカの食の風潮として高まり、より日本料理が受け入れられて来ていることがわかります。
これは松本さんの店舗経営において追い風になりました。
日本食は世界ではまずは「ヘルシーフード」として受け入れられていったということが推測されます。
一時期、多店舗展開をしていた松本さん。
最終的には2店舗を残して閉店させ、食文化研究家として世界各地を取材されているそうです。
現在は、自由な時間を得て、思い立てばすぐに、世界中のどこにでも飛び立つことが出来、「いつまで帰らなければならない」という制約もなく、気ままな旅が出来るというからうらやましいですね。
松本さんの体験を読むと、「先行者利益」の大切さを感じます。
ニューヨークで初めての「お寿司屋さん専門店の経営」という、チャレンジはやはり当初はリスクがつきまとっていたことでしょう。
しかしながら、誰もやったことがなかったからこそ、そのリターンは大きいものでした。
ビジネスをやる以上は、「誰もやったことないこと」にチャレンジすることがとても重要なのでしょうね。
こんな人におススメ!
・アメリカの食文化の遍歴に興味がある人
・海外での飲食店経営で参考にしてい人
・ニューヨークが好きな人
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読書日:2015年10月
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