2013年の楽天イーグルスを想起させる悲しみから復興への物語
『赤ヘル1975』あらすじ
1975年(昭和50年)。広島カープの帽子が紺から赤に変わり、原爆投下から三十年が経った年、一人の少年が東京から引っ越してきた。
やんちゃな野球少年・ヤス、新聞記者志望のユキオ、そして頼りない父親に連れられてきた東京の少年・マナブ。
カープは開幕十試合を終えて四勝六敗。まだ誰も奇跡のはじまりに気づいていない頃、子供たちの物語は幕を開ける。
※アマゾンより
『赤ヘル1975』書評
作家、重松清さんの作品については、テレビドラマ『とんび』は見たことがありますが、小説で読むのは本作が初めてでした。
多作で、質の高い作品を多く生み出しているという印象でしたが、読んでみて、ストーリー構成や登場人物の描き方、題材の扱い方などが巧みで、人気が出るのもうなずけました。
本作は1975年の広島を舞台にしています。
原爆投下から30年が経過し、最下位の常連である広島カープがリーグ初優勝した年。
広島カープの優勝と、いまだに原爆の後遺症で苦しむ人々が存在する状況を絡め、うまくストーリーを仕上げています。
主人公のマナブは東京から来た中学校の転校生。
部外者から広島を眺めるので、マナブと同じ目線で読むことが出来、当時の広島の様子がありありと伝わってきます。
出てくる登場人物も個性豊かで人情味があり、魅力的です。
例えばマナブの父、勝征さんは、様々な怪しいビジネスに手を出しては失敗し、その度に引っ越しを繰り返す。
奥さんは見切りをつけ逃げてしまっても、めげずにポジティブにビジネスに取り組む。
とうとう、ねずみ講にまで手を出し、周囲の人も巻き込み、迷惑をかけてしまう...。
根はいい人なのに、騙されやすく、傷ついてばかり。なかなか忘れることの出来ない愛すべきキャラクターです。
その他、野球がとてもうまいのに、母のお店の手伝いをするため、野球をあきらめたヤスなど、それぞれの個性が際立ち、作品の中でイキイキとしています。
ハイライトまでのストーリーの盛り上がり方も良かったです。
原爆から30年経っても今もなお、後遺症で苦しむ人々。
そして、そんな中で、広島カープが珍しく首位争いをするようになり、希望を持つ広島市民。
そして優勝が決まる日と、マナブが広島から去るというタイミングが重なる、感動のハイライトシーン。
このあたりは、東日本大震災で被害を受けた東北地方の方々に勇気を与えてくれた2013年の楽天イーグルスの優勝と重なりました。
物語を楽しむ要素のツボをしっかりとおさえている作品で、楽しく読むことが出来ました。
あとは、全員が「いい人」過ぎたのはちょっと物足りなかったかなと感じます。
今後も読み続けたい作家になりました。
こんな人におススメ!
・人情モノの物語を読みたい人
・広島カープファンの人
・広島の原爆の実態を知りたい人
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読書日:2015年11月
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