一見、関連性のない2つのストーリーが結ばれていく
『猿のSOS』あらすじ
他人の「SOS」を看過できない性格の遠藤二郎は、副業として「エクソシスト」をしていた。
その噂を聞きつけた知り合いの「辺見のお姉さん」に、彼女のひきこもりの息子・眞人の悪魔祓いを頼まれる。
そして訪問した辺見家の眞人の部屋で『西遊記』の本を発見する。
一方、桑原システムに勤める五十嵐真は、得意先である菩薩証券の20分間で300億円の損失を出した株誤発注事件の原因が、自社の納入したシステムにあるのかのリサーチをしていた。
しかし、次第に『西遊記』の妖怪の幻覚を見るようになり、異形の猿に出くわす。
『猿のSOS』書評
伊坂幸太郎さんの作品は何作か読んだことがあるのですが、ストーリーが巧みで、先の展開に目が離せないといった印象があります。
どの作品もある程度の面白さが担保されている、安心して読める作家といえます。
しかしながら本書はちょっとした仕掛けがほどこされており、今までの作品と少し様子が異なっていました。
物語は当初、全く関連性のない2つの話が交互に展開されていきます。
一つは悪魔祓いを副業にしている遠藤二郎による「私の話」。
もう一つは、五十嵐真という人物が株誤発注事件を調査するという話を孫悟空が語る「猿の話」。
それぞれ興味深い話でありつつも、「2つの話は何の関係があるのだろう?」という疑問を抱いたまま読み進めることになります。
この2つの話が同時進行に進むあたりは村上春樹さんの『ハードボイルドワンダーランド』『海辺のカフカ』を想起させます。
孫悟空が語るあたりも村上春樹作品ぽいテイスト。
そんな突拍子もない話でありながらもぐんぐん読めてしまうのは、伊坂さんにそれだけの力量があるからということになるのでしょうね。
「それぞれの話はどうなるんだろう」と興味が尽きることがありません。
その2つの話はラスト近くになり、思わぬ形で直結します。この仕掛けもまたすごい。
孫悟空の話は、「私の話」で悪魔に取りつかれてしまった人物の独白だったというオチなのですが、その先にもさらに楽しめる工夫が用意されています。
これだけ大胆な話を仕掛けられるののもやはり実力があるから。
面白く仕上げるテクニックはさすがだなと思いました。
レビューを見てみると、ちょっと特殊な構成になっているため、他の伊坂作品に比べ、評価は低めみたいです。
「それでも読むと、面白いよ!」というのが率直な私の意見です。
こんな人におススメ!
・構成上、仕掛けのある物語を楽しみたい人
・巧いテクニックの小説を読みたい人
・伊坂作品を何冊も読み、いつもと違うテイストの作品を読んでみたい人
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読書日:2016年1月
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