あの時、福島第一原発で起こった出来事を克明に描く
『死の淵を見た男』門田 隆将著 書評
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2011年3月11日の東日本大震災で、大津波が襲った後、福島第一原発の原子炉が暴走。
その状況下で、現場の運転員達がどのようにその困難に立ち向かっていったのかが本書には書かれています。
元々この本は、ノンフィクショ ン作家である門田隆将さんが、「原子炉の暴走という中、考えられうる最悪の事態の中で、現場がどう動き、何を感じ、どう闘ったのかという人としての『姿』をどうしても知りたい」という想いから誕生しています。
当時福島第一原発所長だった吉田昌郎さんや首相の菅直人さんなど90名以上にインタビューを実施。
当時の福島第一原発の内部の様子が克明に描かれており、かなり再現性が高く、当時の状況を細かく把握できます。
これだけでも、たいへん貴重な資料といえます。
そして、その内容は「壮絶」としかいいようがありません。
全電源喪失、注水不能、放射線量増加、水素爆発…。想定していなかった事態が次々と起こるわけです。
現場の人々が死を感じずにはいられなくなるのも無理のない話です。
そしてそれは全て、「10メートルを超える津波が押し寄せるわけがない」という自然災害に対する過信から起きたのです。
このような未曾有の事態を乗り切ったのは、吉田昌郎さんのリーダーシップがあったからこそであったというのがよくわかります。
日頃から会社のトップに対してもズケズケとモノをいう性格で、部下からの信頼も厚い。
波乱が起きた時に力を発揮するタイプであり、他の人だったら機能しなかったのではないでしょうか。
しかしながらその時のストレスがすさまじく、やがてガンに侵され、死に至ってしまったのは残念であるとしか言いようがありません。
そしてこの吉田所長についていき、現場にとどまり、自らの死を覚悟しながら立ち向かっていった職場の人々。
実際は命を落としてしまった人もおり、現在、何とか日本国家が成立しているのは彼らのお蔭であるということがしみじみとわかります。
悲惨な状況下で原子炉に飛び込んでいった人々がいたということを考えると、胸が熱くならざるをえません。
間一髪で危機を乗り越えたのですが、一歩間違えれば、日本は三分割(北海道と立ち入り禁止エリアと西日本)されていた可能性があったわけですから、本当に極限状態であったのでしょう。
また、本書では当時の行動も記載されていたのですが、巷でいわれている、「菅内閣の不当な現場介入により、いかに現場が混乱したか」という詳細もよく理解出来ました。
そして、現場の人々の士気が大いに低下したということも書かれています。
危機的状況だからこそ現場に任せ、大局的な判断をする。
このことが真のリーダーシップとして必要な資質となるのでしょう。
今後もこの世の中、何が起こるかわかりません。
そんな中自分の命を投げ打って、郷土や家族、人々を守る判断が自分でも出来るかどうか。
そのような命題を投げかけられた一冊となりました。
こんな人におススメ!
・東日本大震災で、日本はどれほどの危機に陥っていたのかを知りたい人
・危機的状況下でのリーダーのふるまい方を学びたい人
・死をも覚悟して国を守ろうとした人々の存在を知りたい人
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読書日:2016年2月
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