秋葉原通り魔事件に至ってしまった経緯を丹念に描く
『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』中島岳志著 書評
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2008年6月8日に秋葉原で起きた通り魔殺傷事件。
日曜日、賑わいをみせていた歩行者天国。元自動車工場派遣社員の加藤智大が突如2トントラックで乗り入れ次々と人を跳ね飛ばし、車を降りた後もナイフで次々と人を殺傷。
7人が死亡、10人が負傷した極めて陰惨な出来事でした。
本書はこの事件を起こした加藤智大の半生について、政治学者である中島岳志が丁寧に取材し、書き上げた一冊です。
エピローグによると、事件後、加藤がネット掲示板に書いていた書き込みが拡散されるようになり、加藤に対する共感も広がったそうです。
そして、その点について、本書を読み進めると、共感してしまう面が確かにあることは否定できないと感じる自分がいました。
加藤智大というモンスターを生み出してしまったのは、弱者に対するセキュリティーネットがしっかりしていない日本の社会であると考えてしまいます。
とはいえ、加藤智大がこのような事件を起こしてしまった一番の要因は明白です。
それは、両親による虐待に近いまでの幼少期の厳しすぎる「しつけ・教育」にあります。
両親からすると「しつけ」のつもりだったそうですが、具体的なエピソードを読むとその行動は常識を逸脱しています。
・料理の盛り付けをいたずらしたら、母に2階から落とされそうになった。
・泣くとスタンプを一つ押し、スタンプが10個たまるとさらなる罰を与えた。
・食べるのが遅いと食事を茶碗の上にあけて食べさせた。
そして、母に口ごたえすればするほど、厳しい罰を与えられ、やがて加藤は口ではなく、相手に気付いてもらうように行動で態度で示すようになるのです。
この「行動パターン」が、加藤の思考回路として定着し、人生で暗い影響をおとしていきます。
大人になっても、例えば、上司への不満を伝えようと、突然会社に来なくなったりするなど、自分の生活環境はじょじょにすさんでいきます。
そして、秋葉原通り魔事件のきっかけも、ネット掲示板で無視され続け、その怒りの意思表示として起こしてしまったのです。
職を転々とし、遂にはサブプライムショックの余波によるリストラ。出口の見えない日常・・・。
友人もけっしていないわけではなく、仕事も真面目で丁寧。
それなのに過去のトラウマとセーフティーネットの欠如により悲惨な生活を強いられていく加藤。
彼もまた現代社会の被害者の1人なのかもしれません。
そして、幼少期に無条件の愛情を注がれることがいかに大切か。
本書を読み、身にしみて実感いたしました。
こんな人におススメ!
・秋葉原通り魔事件について詳しく知りたい人
・幼少期の無償の愛情についての大切さを知りたい人
・加藤智大の半生について確認したい人
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読書日:2016年8月