想像を絶する困難を乗り越えて見えてくる景色
『LDは僕のID 字が読めないことで見えてくる風景』南雲明彦著 書評
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本のタイトルにあるLDとはLearning Disordersの略語であり、学習障害を意味する言葉です。
著者の南雲さんはディスレクシア(読字障害)という読み書きに困難を伴う障害に苦しんだ方であり、この障害と向き合ってきた経過や学びを綴っています。
ディスレクシアの人は脳での情報処理の仕方が一般の人と異なるという障害を持ちます。
そして、現象として知的能力及び一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、文字が揺らいだりにじんで見えたり、ノイズを拾いすぎるイヤホンのように肝心な音が聞こえてこないといったことが起こります。
トム・クルーズがこの障害を持っていることが知られています。
この障害の厄介な所は外見からは全く分からないことで、本人すら自覚がないケースも少なくありません。
実際、南雲さんも幼い頃からこれらの現象に悩まされていましたが、この障害の存在を知り、自分もそうかもしれないと思ったのは21歳の夏だったそうです。
それまでは人より理解度が遅いことを、自分の至らなさが原因と腹を立てていたとのことで、それまでは身を切り刻むような苦しさを味わっていました。
実際読み書きがまともに出来ないという自責の念は高校2年の時にピークに達し、不登校になり、引きこもり、自傷行為を繰り返し、強迫性障害・うつを発症したそうです。
他人よりなぜか劣っているけれど原因はわからない。
そんな状況化の生活は相当に苦しいものであるというのはある程度理解出来ますが、本当に過酷だったことでしょう。
南雲さんのドン底の時期。そこで手を差し伸べてくれたのが南雲さんが19歳の時に母の同僚から紹介された女性カウンセラーでした。
このカウンセラーが愛を注いでくれたことで傷つけられた心が癒され、深く感謝する存在になったそうです。
そして、21歳の時に理解不足の原因が学習障害だったことを知ります。この段階でやっと苦しみから解放され、現在は同じように悩む子供がいなくなることを願い講演や執筆などの啓発活動を精力的にこなされています。
本書で一番印象深かったことは、南雲さんが現在は「この障害を持って良かった」とさえ述べていることです。それは、この障害をもって生まれたからこそ出会えた人たちや、風景が確実にあり、それがかけがえのない宝物になっているからという理由です。
単純に捉える問題では決してありませんが、どんな困難にも前向きに取り組むことで他の人には到達出来ない境地があるのかもしれないと思いました。大変な困難に直面しても必至にもがいて進んでみる。そうすることによってしか見えてこない景色があるのかもしれません。
こんな人におススメ!
・学習障害(特にディスレクシア)について学びたい人
・大変な困難に直面し、それでも乗り越えていく勇気を知りたい人
・現在の日本の障害者に対するケアの実情と課題を知りたい人
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読書日:2014年9月
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