まるでノンフィクション。「いじめ」をテーマにした極めてリアルな物語
『沈黙の町で』奥田英朗著 書評
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奥田英朗さんが書く物語は『イン・ザ・プール』などの精神科医伊良部一郎シリーズに代表されるユーモア路線と、『オリンピックの身代金』などのシリアス路線の大きく2つの系統に分かれます。
私はどちらも好きですが、シリアス路線はまるでノンフィクションのようにリアルな物語が展開され、奥田さんの本領発揮といった趣があります。
本書もそんなシリアス路線の作品です。
この物語は「いじめ」を扱っています。
中学2年の男子生徒が部室棟の屋上から転落し死亡。事故か自殺か他殺か。
この事件を巡り、学校やその保護者、マスコミ、警察などそれぞれの思惑が動き出します。
冒頭から事件が発覚し、グイグイと話に引き込ませる展開はさすが奥田さんという感じ。
読んでいるうちに本当に起きた事件だと錯覚してしまうほど、リアルにストーリーが進行していきます。
それは緻密な設定と登場するキャラクターの作り込み、ストーリーがご都合主義になっていないというこなどが要因になっているでしょう。
事件後、様々な登場人物がそれぞれの立場で自己保身に走ります。
残念だがこれが現実だと思わせる説得力があり、結局人間は自分のことしか考えないという極めてシビアな視点を奥田さんは持っており、それがリアルさを演出しているのでしょう。
細部まで緻密に設定された状況や登場人物の行動に矛盾を感じることはなく、違和感なく読み進められる奥田さんの筆力はさすがだと思わずにいられません。
これだけの重厚な作品であれば、「いじめ」について考えずにはいられなくなるものです。
物語の力をまざまざと感じ取れる本になっています。
こんな人におススメ!
・まるで実際の事件のようなリアルな世界観を堪能したい人
・グイグイと引き込まれる物語を楽しみたい人
・「いじめ」を扱った物語を読みたい人
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読書日:2015年6月
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