面白い映画を作ることに執着した市川崑の美学がわかる
『市川崑と『犬神家の一族』』春日 太一著 書評
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私自身、映画が大好きで市川崑監督の作品もそれなりに観ています。
しかしながら、その中でも代表作ともいえる『犬神家の一族』についてはまだ観たことがありません。
それは怖い映画が苦手だから・・・。
そんな私ですが、やはり『犬神家の一族』には魅力的で興味があり、まずは本書を通じてこの作品を知ってみようと思い、手に取ってみました。
本書は3つの章からなり、『犬神家の一族』以外の作品の解説についてもカバーしています。
第一章 市川崑の監督人生
第二章 なぜ『犬神家の一族』は面白いのか
第三章 石坂浩二による、市川崑の謎解き
第1章からは、何よりも妻であり、市川崑作品の脚本も手掛けていた和田 夏十さんの存在が市川崑にとってとても大きかったということを知りました。
和田さんが他界後、市川崑作品は輝きを失い、晩年はあまり良い作品を生み出せなくなっていくのです。
そして、本書では市川崑が映画製作に対し、並々ならぬ情熱とこだわりを持っていたことがわかるエピソードが数多く書かれています。
現代の映画監督でここまで情熱を傾けられる人はいないのではないでしょうか。
そんなエピソードのいくつかをご紹介いたしましょう。
・1カットの画を欲しいためにその前後の芝居も延々と撮る。短いカットでも、その画だけを撮るわけではない。(162ページ)
・画でどういうふうに見えるかということから逆算して、映っていないところの動きまで考え、演技指導をする。(171ページ)
・照明に凄く時間をかける。(172ページ)
とにかく、細部にわたりワンシーンワンシーンをたっぷりと時間をかけ、最高の映像美・演技を追及していくのです。
また、「面白くするなら、俺に任せろ」という自負が強い象徴的なエピソードして、石坂さんは下記ようなことを語られています。
当時、東宝の撮影所で黒澤明監督が『影武者』を撮っていた。
隣で『金田一』を撮っていた市川崑は、黒澤明のところに駆けて行って、「黒ちゃん、面白くするんだったら代わってあげようか」と言った。(205ページ)
映画の神様ともいえる黒澤明監督にこんなことを言えるのは、市川崑くらいでしょうね。
さて、実はご存じの方もいらっしゃると思いますが、『犬神家の一族』は2006年にも同じ脚本、同じカット割りでもう一度制作されています。
しかしながら、この作品は結果的に「市川崑は衰えた」という印象だけを残す残念な遺作に。
これには理由があり、市川崑が演技指導をしても俳優がその通りに演じることが出来ず、結局は監督が、「じゃあいいや」とあきらめてしまうことが随分あったそうです。
また、今の役者はスケジュールが非常にタイトで、その点でも粘り切ることが出来ない事情の一つでした。
私としても2つの作品を観比べ、どう違うのか比較してみようと思います。
本書を読み、市川崑作品がとても観たくなりました。
『犬神家の一族』を含め、しばらくは市川崑作品に夢中になりそうです。
こんな人におススメ!
・市川崑の映画手法を知りたい人
・『犬神家の一族』に興味がある人
・クリエイティブな仕事をしている人
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読書日:2016年8月
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