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少子化が進む日本で起きている事象の象徴

『人口減少時代の鉄道論』市川 宏雄著 書評

 

『人口減少時代の鉄道論』市川 宏雄著

 

サイト管理人の評価

 

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日本の人口はご存じのように2008年をピークに減少に転じています。

 

調査によると2054年に1億人を割り込むと試算されています。

 

この人口減少に関しいち早く影響を受けているのが鉄道路線であり、特に地方の鉄道会社は経営難に陥っている所も少なくありません。

 

本書はそんな人口減少時代に突入した日本の鉄道事情を、様々な視点から紹介しています。

 

著者は先進国から途上国まで、都市整備や地域開発に数多く参画。

 

東京都・都市計画審議会などの委員も歴任し、東京研究の第一人者として知られています。

 

本書での言及は多岐に渡り、「乗客はすでに減り始めている」「鉄道会社の生き残り戦略」「明暗分かれる都市鉄道の未来」「地方鉄道が生き残るための条件」「新幹線は地方を救えるのか」「都市別に見る鉄道の未来」「それでも鉄道はなくならない」と章立てされています。

 

鉄道についてあまり詳しくない私にとって、この本から多くの情報を得ることが出来ました。

 

・東京は引き続きしばらくは人口増が見込まれるため利用者の増加は見込まれるが、大阪は既に大きな減少に見舞われている。それは、新幹線開通により東京移住者が一気に増えた影響も大きい

 

・リニアが開通されると名古屋は東京の経済圏に取り込まれ、発展が予想される。そうなると大阪の地盤沈下はますます進むであろう

 

・地方の鉄道会社の経営は年々厳しくなり、廃路も増えている。その中で「猫の駅長」で注目を浴びた和歌山電鐵貴志川線やブランドを活用し不動産開発で利益を伸ばした紀州鉄道などの成功モデルも生まれている

 

・地方生き残りのカギはコンパクトシティ構想による利用者の維持・確保にある

 

・駅の中のショップを充実させることで駅の中に経済圏を確立させる取り組みが都市部で行われている

 

・増加している訪日外国人が次なる顧客となり、空港からの輸送機関としての役割に商機がある

 

鉄道路線は人の身体でいうところの血液であり、線路が出来ると人や経済の流れが一気に変わってしまうことがよくわかります。

 

私鉄が駅周辺の土地開発も併せて手掛けるのも、相乗効果を狙ったビックビジネスということになるのでしょう。

 

総じて東京以外のエリアでは、生き残りのために経営努力を強いられることになります。

 

もちろんその努力がサービス向上につながれば良いことに違いはないのですが、そもそも顧客となる母数が減り続ける以上、いつまで持ちこたえることが出来るのかという問題に結局はつきると思います。

 

地方の鉄道会社の奮闘は悲壮感さえ感じさせます。

 

出生率の引き上げや移民受け入れなどで人口を維持していかないと状況はますます苦しくなる。

 

これだけの大きな課題を長年経っても何ら改善させていない政府の罪は、思っている以上に大きいものなのではないかと考えます。

 

こんな人におススメ!

・人口減少がもたらす弊害の1つの事象を知りたい人
・これから人の流れがどのように変化するか把握したい人
・経営難に立ち向かう地方の鉄道会社の様々な施策を確認したい人

 

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読書日:2015年10月

 

『人口減少時代の鉄道論』市川 宏雄著

 

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