ウルトラマンとガンダムを分けたもの
『ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗』円谷 英明著 書評
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本書によると2012年時点では、バンダイが扱う多くのテレビ番組関連キャラクター商品の中で、最も売れているのは、「機動戦士ガンダム」シリーズであり、ウルトラマンシリーズはその10分の1以下に過ぎないそうです。
ガンダムとウルトラマンシリーズには、最初の作品が歴史的に評価が高いという共通点があるにも関わらず、その後どうしてこのような差が生まれてしまったのか?
著者はこの要因について、「ガンダムシリーズには、作る側と一緒に育てたいというファンの共感があったためではないか」と述べています。
キャラクタービジネスの肝はここにあり、これを踏み外すとどんなに優れた作品であっても、スケールさせていくことは難しいということなのでしょう。
本書は、ウルトラマンシリーズを制作した円谷プロダクション(円谷プロ)の遍歴を、円谷一族の末裔であり、6代目円谷プロ社長だった円谷英明が綴る内容になっています。
円谷プロについては、この本を読むまでさほど詳しくなく、時々新聞で、タイの会社と版権を争い裁判沙汰になっているため、必ずしもうまくいっているわけではないのだという程度の認識でした。
現在、円谷プロはパチンコメーカーのフィールズの子会社になっており、創業家である円谷一族は会社の経営から既に一掃されてしまっているということがわかり、驚きました。
本書では、最初は大ヒットをとばしていた「ウルトラマンシリーズ」が、その内情は火の車であり、その後も放漫経営を重ねていったことが書かれています。
例えば、初期のウルトラマンシリーズでは、TBSは1本550万円を円谷プロに支払っていましたが、実際の製作費は1本1000万円近くかかり、番組を作るたびに借金が積み重なっていたとのこと。
つまり、ビジネスモデルの前提自体が既に破綻していたのです。
もちろん、円谷プロでは、その後のキャラクター商品販売の収益などで赤字分を回収するという目論見があったのですが、経理がどんぶり勘定で処理しており、それでも黒字にならない体質が長年見過ごされて来ました。
さらに、3代目社長(円谷 皐)はこのような状況にも関わらず、ハワイやラスベガスで豪遊し、資金がほとんどなくなってしまったそうです。
そして、バンダイが資金提供して、支援に入るも、玩具販売を第一に考えるために、平成版ウルトラシリーズは小道具が増え、タイプ別の複数のウルトラマンを生み出し、視聴者が離れていく現象を生み出してしまいます。
このように、過去の遺産を食いつぶし、短期的な利益を追求していったことで、「ウルトラシリーズ」の価値がみるみる下がっていく様子が書かれています。
最終的に、ビジネスモデルの破綻が確認され、新作の製作は困難に。
TYOという会社が買収、そして円谷一族が一掃され、フィールズに売却されるという結末に至ります。
著者の円谷英明さんは2005年5月、6代目社長の時に、4代目社長だった円谷一夫にクーデターを起こされ、解任されます。
その後、「円谷ドリームファクトリー」という新会社を設立するのですが、中国ビジネスに特化し、中国で番組を作り、中国で放送することを目指し、その顛末が書かれています。
円谷英明さんは製作資金を得るために自宅さえ売却するのですが、資金とノウハウを注ぎ込んだ挙句、追い出され、借金だけが残った状態で断念することに。
中国ビジネス参入の恐ろしさは、『コラァ!中国、いい加減にしろ!』を読んで認識していましたが、その実例をまざまざと見せられた感じです。
「ウルトラマンシリーズ」は私も子供の頃、強い影響を受けただけに、裏側がとても悲惨になっていたことは悲しいものでした。
そして、「ウルトラマン」ほどの優良なコンテンツを持っていても、中長期的な戦略がないとそのブランドを汚すことになるということが身に染みてわかりました。
こんな人におススメ!
・キャラクタービジネスに関心がある人
・ウルトラマンの内情について知りたい人
・会社経営の反面教師として学びたい人
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読書日:2015年11月
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