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複数の人物による「1人称」小説。作家のテクニックが見事

『牛丼愛』小野寺 史宜著 書評

 

『牛丼愛』小野寺 史宜著

 

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『牛丼愛』あらすじ

時給はいいけど、仕事はキツイ。深夜、強盗に狙われる事件も増えている。

 

そんなリスクを顧みず、「美味い・安い・早い」を求めるお客さんのため、「牛丼屋」という職場で働く若者は多い。

 

しかし、彼らが抱える事情はさまざまで……。

 

牛丼屋で交錯する“おかわりのできない「ひとつひとつの人生」を、クールな筆致でテンポよく描く。

『牛丼愛』書評

小野寺 史宜さんという作家は、失礼ながら今まで知らず、作品タイトルのユニークさで手に取り、読んでみました。

 

そして、とても面白かったです。

 

この物語は全部で3つの話に分かれています。

 

1話「肉蠅」、2話「そんな一つの環」、3話「弱盗」というタイトル。

 

それぞれの話はリンクしているのですが、1話目と2話目がほとんどリンクせず「短編集?」と感じてしまうでしょう。

 

しかし最後の3話目で、1話目と2話目が収斂されていきます。

 

そのためこれから読まれる方は、そのあたりをふまえて読んでみると良いでしょう。

 

さてこのように3つに分かれている本作ですが、各章毎に小説のテクニックを駆使されていて、感心します。

 

■1話
牛丼のアルバイト店員である2人。主婦の「恵」と太った女子大生「日和」、それぞれの視点が交互に展開しながら話が進みます。

 

2人の人物による1人称の物語です。

 

恵の視点で語られている時は、日和や店長がダメダメな人間のように写るが、日和の視点で語られる箇所は、実は問題児は恵の方で人を小馬鹿にする性格なのだということがわかります。

 

それぞれの主観と現実のズレを楽しむことが出来ます。

 

■2話
今後は視点が次々に変化します。

 

最初は、田沢夏という幼稚園の先生の視点で始まり、バイクに乗った時に松谷智朗という小学生と交差点で出会い、そこで、松谷智朗の視点に切り替わり、田沢夏はフェードアウト。

 

松谷智朗が家に帰ったら、ナギという母の知り合いが家にいて、次にナギの視点で物語は進む…。

 

というように、どんどん主人公がチェンジしていくのです。

 

たくさんの人物による1人称の物語。つまり、2話の名前の通り、「一つの環」といった感じです。

 

■3話
1話と2話は全く登場人物が異なるのですが、それぞれの登場人物がここで、リンクしていきます。

 

ドラスティックで目まぐるしい展開がやがて落ち着きだし、平和な終焉を迎えます。

 

プロ小説家の巧みなテクニックといった様相で、やはりプロは違うものだと思いました。

 

全体の話の進み方が、私が好きな作家である奥田英朗に似ているなという印象でも、その点でも私にとって相性の良い作品。

 

本作品のように予期せぬストーリーを楽しむということが、私の嗜好にあっているのでしょう。

 

こんな人におススメ!

・複数の人物による「1人称」の物語を読みたい人
・奥田英朗作品が好きな人
・牛丼が好きな人

 

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読書日:2016年1月

 

『牛丼愛』小野寺 史宜著

 

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