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ホリエモン的価値観の対極に位置する人々の物語

『55歳からのハローライフ』村上 龍著 書評

 

『55歳からのハローライフ』村上 龍著

 

サイト管理人の評価

 

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『55歳からのハローライフ』あらすじ

■結婚相談所
定年退職してからずっと家でテレビに愚痴をこぼす夫に耐えられなくなった55歳の中米志津子は離婚を決意する。

 

夫とは違うタイプの男を求め、結婚相談所に登録して見合いを繰り返すが、思うような相手は一向に見つからない。

 

優良会員限定の合コンパーティにも招待されるが、気おくれして退場してしまう志津子。

 

会場のホテルのバーに入ると、そこで声を押し殺し独り泣いている30代の男を見つけ・・・。

 

■空を飛ぶ夢をもう一度
出版社をリストラされた因藤茂雄は、ホームレスに転落するかもしれないという恐怖と隣り合わせで生きている。

 

60歳の身体にムチをうち、水道工事の誘導員をしていたある日、中学時代の親友だった福田に声をかけられる。

 

福田はこの辺りの高級住宅街で暮らしているという。

 

だが、1ヶ月後、因藤は瀕死の福田から呼び出される。

 

福田は山谷のホームレスだったのだ。当惑する因藤に、福田は「最期の望み」を託すのだが・・・。

 

■キャンピングカー
58歳で早期退職した富裕太郎は、キャンピングカーを買って旅に出る、という老後の計画を妻から拒否される。

 

既に手付金だけは支払っていたので、富裕の時間も宙ぶらりんになってしまう。仕方なく再就職先を探すことにした富裕。

 

しかし、現実は想像以上に厳しい。

 

若いキャリアカウンセラーから無能さを指摘され、相談に行った取引先の社長からも相手にされず、次第に心身のバランスを崩していく。

 

■ペットロス
55歳の高巻淑子は、夫が定年退職して、一人息子も海外赴任すると、念願だった柴犬を飼うことにする。

 

近所の愛犬家とも交流するなかで、淑子は義田(世良公則)というデザイナーの男にほのかな恋心を抱く。

 

しかし、柴犬は心臓肥大の難病にかかってしまう。

 

淑子は犬嫌いの夫と喧嘩して、愛犬と共に三畳間のクローゼットに閉じこもる。

 

寝食を惜しんで懸命に介護にあたる淑子。見かねた夫も介助をし始めるのだが・・・

 

■トラベルヘルパー
ベテランのトラック運転手だった下総源一は60歳でリストラされ、不定期のトラック便のアルバイトをしている。

 

独り身のアパート生活を慰めるのは趣味で始めた読書。

 

ある日、行きつけの古書店で店主と親しげに話す女性客・堀切彩子と知り合い一目惚れする。

 

惰性のように送っていた生活に俄然ハリが出てきた下総。

 

目一杯自分を着飾り、教養豊かな男に見せかけてデートを重ねるが、突然別れを告げられてしまう。

 

あきらめきれない下総は彩子の家を探し出すのだが…。

『55歳からのハローライフ』書評

村上龍さんの作品は、高校生の時からかなりの量を読んでいます。

 

しかしながら最近は遠のいてしまっており、久しぶりに手に取ってみました。

 

『カンブリア宮殿』などの経済番組にもご出演されていることもあり、今の日本のリアルな経済事情を忠実に反映した作品を書かれているんだなという印象を本書から持ちました。

 

本書は5編の中編ストーリーから成り立っており、地方の新聞で連載されていたものです。

 

いずれの物語の主人公もタイトルの通り、55歳以上の中高年・シニアであり、恐らくこの年代がぶつかるであろう課題がテーマの中心になっています。

 

具体的には、リストラや再就職の困難さ、定年後の夫婦仲の亀裂といったことです。

 

読み進めるうちに、この本に出てくる主人公達は、今の時代のシステムの変化についていくことが出来ず、それで苦しんでいるのではないかと感じました。

 

例えば、リストラや再就職。

 

私自身もそうですが、インターネットの普及により、パソコン1台かれば稼げるようになった今の時代においては、組織に属さなくても稼げる手段はたくさんあるものです。

 

「わざわざ既存のシステムの中に入り、苦しむことないのに」とさえ思ってしまいました。

 

おそらくこの物語の登場人物達の対極の価値観にあるのが、ホリエモンこと堀江貴文さんでしょう。

 

どの組織にも属せず、ノマドワーカーとして働き、結婚という形式を拒否する。

 

その価値観には賛否両論ありますが、堀江さんのようなタイプであれば彼ら・彼女らのように苦しむこともないのです。

 

苦しみ・悩むからこそ人生は面白く、深みが出てくるのかもしれませんが、一方で時代の環境の変化にあわせ、したたかに生きるということも必要なんだろうなとも感じずにはいられません。

 

そんな印象を抱いた物語でした。

 

こんな人におススメ!

・現代社会において、中高年・シニアが陥りがちな課題について知りたい人
・最近の村上龍の作品の雰囲気を感じたい人
・既存のシステムが生み出す苦しみを認識したい人

 

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読書日:2016年8月

 

『55歳からのハローライフ』村上 龍著

 

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