目黒考二にとって「本の雑誌」とは配本部隊の学生助っ人達だった
『本の雑誌風雲録[新装改訂版]』目黒 考二著 書評
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椎名誠さんと目黒考二さんが中心となって創刊した『本の雑誌』。1976年から発行しているので40年近く続いていることになります。
またデビュー前の群ようこさんが本の雑誌社に最初の社員として採用され、「群」という名は目黒さんが使用していたペンネームを譲り受けたことでも知られています。
本書は刊行10年を機に1985年に刊行された『本の雑誌風雲録』に加え、その後の状況を「あとがき」として加え2008年に改めて『新装改訂版』として出たものとなります。
椎名さんの本はたくさん読んでいたので、椎名さんの視点からみた『本の雑誌』は知っていたのですが、目黒さんの視点で描いた本書を読んだことで、『本の雑誌』の違った面を見ることが出来ました。
本書では『本の雑誌』創刊に至る経緯から書かれていますが、元々は本が大好きな目黒さんがその月に読んだSF新刊の評を便箋に数枚書いて椎名さんに送った「SF通信」がきっかけだったのだそうです。
そんな手紙が40年近くも続く雑誌になってしまうとは、椎名さんの実行力には驚かされてしまいます。
そんな形でスタートしたので、「無理をしない、頭を下げない、威張らない」という三大原則を社是とし、しばらくは儲けも全く考えていなかったようです。
どうもそんな純粋な気持ちで始めた方が、ビジネスは成功することが多い気がします。
元々、目黒さんは大の本好きで、『本の雑誌』を手掛ける前は会社に入社してしばらく働いていると本が読めなくなるのがもったいないと感じて来て退社することを繰り返してしまうほど。
そんな目黒さん本人の意志とは裏腹に、『本の雑誌』の人気に火が付き、仕事に忙殺されていく過程は興味深く読めます。
そんな目黒さんは、『本の雑誌風雲録』のラストでは
「ぼくにとって『本の雑誌』とは、彼らだったのである。」
と述べ、また、新装改訂版のあとがきに
「合わせて37年間の、本の雑誌とは無縁の人生が私にはある。しかし本の雑誌の発行人であった25年間のほうが10倍以上楽しかった。それだけは間違いなく断言できる。」
と語っているのが強く印象に残りました。
ここで述べている「彼ら」とは、直販だった『本の雑誌』を本屋に配るための、約70名の配本部隊の学生たちのことを指します。
ほとんど利益が出ない本誌において、飲食代だけで助っ人として働く学生達の記述が本書の中心になっているのですが、人づき合いが苦手な目黒さんが必死になり彼ら・彼女らを理解し、愛情を持って見つめている様子が文章からよく伝わってきました。
人が多く集まり、同じ目標を持って取り組む。
そして、どんなに大変であっても時が経つほどにそれは素晴らしい宝物になるものなのだ。
そんなことを本書を読み感じました。
こんな人におススメ!
・雑誌を創刊する過程を知りたい人
・『本の雑誌』の経済状況を確認したい人
・学生生活を『本の雑誌』に捧げた数多くの助っ人大学生の人生模様を読みたい人
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読書日:2015年10月
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