二重構造の物語に挑んだ椎名さんの私小説
『そらをみてますないてます』椎名誠著 書評
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高校時代から椎名誠さんの作品を読み続けていますが、読み飽きないのは私小説からエッセイ、旅行記、小説、SFなど扱う範囲がとても広く、シリーズ化しているものも多いのでそれぞれのジャンルをずっと読み続けられる土台が出来上がっているというのも理由の1つでしょう。
例えば、『三匹のかいじゅう』は息子、岳さんの成長記録のシリーズで1作目の『岳物語』から30年近く経った今でも新刊が出ています。
本書もまたそんなシリーズモノの1つで、『黄金時代』という椎名誠さんの自伝的青春喧嘩小説の続編という立ち位置にあります。
但し、今回は椎名さんらしからぬ物語構造にチャレンジしています。それは、2つの時間軸を交差させながら物語が進行していくこと。
1つは『黄金時代』の続編としての内容で19〜22歳くらいまでの若かりし椎名さんの物語。もう一つは最近の旅から過去の旅、さらには作家デビューあたりまでさかのぼるように進行する物語。
この2つが交互に交じりながら進んでいきます。
2つの物語を交差させながら進めていく手法はよくあるといえばよくあるパターンですが、直球型の椎名誠さんがこの手法を取り入れるとはちょっと意外でした。
好奇心が強く何でもかんでも書いてしまう椎名さんだからこそチャレンジしてみようと思ったのかもしれません。
その意味で、他の椎名作品とは異質な感じがします。
内容については、大量の椎名作品を読んできた私としては知っていたエピソードも多くありました。
椎名さんがこの年代だった頃の自伝的作品は他にも既に発表しており、旅行も既に発表済のものも多いので、改めて椎名さんの過去の体験をなぞるような印象です。
但し作家になってから人気が出てくるまでの詳細の過程が書かれ、これは新しい発見で興味深く読みました。
初めて椎名さんの作品を読むと独特の感性とユニークな文体が魅力的で、デビュー後たちまち話題になったそうで、世に出た時のインパクトは確かに大きかったであろうなというのは納得できます。
椎名誠さんは私生活、旅行と何をやっても作品として切り出せ、しかも売れるので、存在自体に価値があるといえます。
作家という職業を考えると、椎名さんはとても羨ましい資質をもたれていますね。
こんな人におススメ!
・二重構造の物語にチャレンジしている椎名さんの作品を読みたい人
・椎名さんが作家デビューしてから人気が出るまでの経緯を知りたい人
・椎名さんと奥さんの出会いのシチュエーションを知りたい人
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読書日:2015年1月
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