世の中の構図はそうそう簡単ではないことを思い知らされる
『A3【エー・スリー】』森 達也著 書評
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本作の前に実は、『A』『A2』という2作品が存在します。しかしこれらは映画という形式で公開され、著書の森 達也さんは監督の立場でした。
『A2』の興行がうまく行かず、3作目は本の形式にしたとのこと。
本作における「A」は麻原彰晃(本名:松本智津夫)のことを指します。
裁判において、一審で死刑判決が確定となり、そのまま審理が打ち切られるという異例の事態になった麻原氏の裁判。
しっかりとした真相究明をしないまま、葬り去られようとしている数々のオウム真理教関連事件。
その裁判の特異性に異を唱えるのが本書の内容となっています。
収監後、麻原氏は精神が崩壊している状況にあったそうです。
当然精神的におかしくなっているのであれば、麻原氏の判決に考慮されるのですが、この裁判では、詐称と判断され、精神鑑定の動議すらありませんでした。
著者の森さんの取材によると、麻原氏の言動は確かに、精神が崩壊していると思わせるエピソードが多く書かれています。
既にコミュニケーションは取れない状況になっており、牢獄の中で麻原氏は糞尿まみれで生活している。
麻原氏の娘が面会に来た時も、コミュニケーションを図ることが出来ず、何と娘の前で自慰行為を始めてしまったそうです。
このような数々の証拠を列挙し、著者は麻原氏の精神は詐称ではなく、本当に壊れてしまっていると推測します。
これらの主張は一般的な世論からすると、タブーすぎるほどタブーであり、禁断中の禁断の主張であるといえます。
しかし著者は実に丹念に圧倒的な取材をされており、説得力を持ちます。
取材は浅原氏が宗教を立ち上げる前の時期にまで及びます。
麻原氏の父は地域の中でとても慕われていた人物であり、子供が大変な犯罪を起こすとは全く考えられなかったと述べる住民。
さらに本書は、地下鉄サリン事件に関し、本当に麻原氏が陣頭指揮を執ったのかというところまで切り込みます。
本書では、麻原が次第に組織内で制御が効かなくなってしまい、暴発の道に行かざるを得なかった模様が描かれ、考えさせられます。
そこにはマスコミが作り上げたイメージとは異なる実態がかかれ、「麻原=悪」という簡単な構図でくくられるものではないのだということが伝わります。
とはいえ、「戦後最大のテロ」が起きてしまったことは事実であり、オウム真理教が実行したことも事実です。
読み終わり、何ともモヤモヤした気分になり、振り上げたこぶしをどうすればよいか迷う気持ちも少しあります。
そうはいっても一審で死刑判定となり、そのまま打ち切りになった裁判はあれでよかったと思う自分がいることも事実です。
世の中はとても複雑で、全てが合理的に判断出来るわけではありません。
著者の森さんは相当な覚悟を持って本書を発表したのでしょう。
マスコミが作り上げた世論に簡単に感化されるのではなく、その実態を綿密に調べ上げることが大切なのだと感じています。
こんな人におススメ!
・オウム真理教の一連の事件について別の角度から知りたい人
・逮捕後の麻原彰晃の様子について詳しく知りたい人
・マスコミのイメージ操作と実態の差を確認したい人
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読書日:2015年12月
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