【読書感想】『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹

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村上春樹と父親の葛藤。抗えない血筋

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹著 書評

 

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹著

 

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村上春樹が好きな私にとって待望の新刊。

 

しかもご自身の父親について語るということで、非常に興味深く読ませていただきました。

 

もともと春樹さんと父親の間で、相当な確執があるというのは知っていました。

 

たしか子供を産まないのも、ご自身の家系を絶やしたいからとかで尋常ではありません。

 

春樹さんの父は村上千秋三という名前で、国語の教師をされていました。

 

ネットでそのお顔を拝見したことがありましたが、とてもお優しそうな方で、確執があるのは不思議でした。

 

ただし春樹さんもかなり頑固そうな性格なので、そういうこともあるのでしょう。

 

しかし父親の死後、春樹さんはぽつりぽつりと父について語り出し、最新作の長編『騎士団長殺し』では親子の関係を書くまでに。

 

そんな下地があって、いよいよ満を持しての刊行という印象です。

 

タイトルの『猫を棄てる』は、春樹さんが子供の時に父親と一緒にに猫を棄てにいったエピソードから来ています。

 

本編は97ページで挿絵も多く挟まれているので、すぐに読めてしまいました。

 

父の半生の回顧録。そしてご自身との関係性について語られています。

 

秋三さんは戦時中に三度も懲役を受け、この従軍経験があったからこそ結果的に今の自分が生まれたと、その運命の不思議さを強調。

 

そして最後に下記のように語られています。

 

いずれにせよ、僕がこの個人的な文章においていちばん語りたかったのは、ただひとつのことでしかない。ただひとつの当たり前の事実だ。

 

それは、この僕はひとりの平凡な人間の、ひとちの平凡な息子に過ぎないという事実だ。

我々は結局のところ、偶然がたまたま生んだひとつの事実を、唯一無二の事実とみなして生きているだけのことなのではあるまいか。

 

長い間絶縁状態だった父と子の関係は、父親が末期がんで入院している時にやっと和解を果たします。

 

しかし絶縁状態だったとしても『ねじまき鳥クロニクル』や『騎士団長殺し』を読むと、父親の存在が春樹さんの作品に色濃く影響を与えていることがわかるのです。

 

切っても切れない『業(ごう)』のようなものが親子関係にはある。

 

私達はそれがどんな関係であれ、望むにしろ望まないにしろ受け入れるしかないのだと感じざるを得ませんでした。

 

71歳になられている春樹さん。

 

ご自身のキャリアの終焉に向けて、様々な局面の決着をつけようとする強い意志を感じました。

 

こんな人におススメ!

・村上春樹ファンの人
・親子の葛藤について知りたい人
・戦争が及ぼす影響を知りたい人

 

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読書日:2020年4月

 

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹著

 

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